【ギンコ・ビローバ】樋口円香の感想と考察 ~樋口円香は何処に行こうというのか~

樋口円香の限定SSR「ギンコ・ビローバ」、Twitterのフォロワーさんで話題になっていたので確保し、トゥルーエンドを見ました。その感想、考察(と言えるレベルなのかは自信ありませんが…)になります。

まず言います。樋口円香を知る人間には2種類います。それは、このSSRのトゥルーである「銀」のコミュを知る者と、そうでない者。

このSSRのトゥルーはそれだけの隔絶の力があります。

樋口円香のようなタイプのキャラクター、定型的な言い方をすると、ツンデレ、クーデレでしょうか、は多く存在します。同じアイマスで言うなら千早なんかが近いでしょう。実際、彼女のプロデュースして昔の千早を思い出した人も多いのではないでしょうか。僕もそうでした。しかし、樋口円香は、”まだ”2枚目のSSRの終点である「銀」で樋口円香という絶対無二の存在を手に入れたと言って良いでしょう。

「ギンコ・ビローバ」の固有コミュが5個あり、そこにある共通項は言葉と沈黙、真(信)と偽です。その視点から、一つずつ見ていきたいと思います。

「囀」、さえずる。

言葉と信、それはプロデューサーの鼻歌←→沈黙と偽、それは樋口円香の鼻歌

昼休みに取引先との会話のタネのために料理をするプロデューサーが思わず鼻歌を歌っていると、それを樋口円香に聴かれるというコミュ。プロデューサーの鼻歌は心から自然に出たものであり、信なるものです。それに対する樋口円香の、プロデューサーの歌を模倣した偽の鼻歌は、誰にも聞こえない(選択肢次第でプレイヤーにだけわかる)沈黙と同義のものです。「歌いたい時に歌っていいのは小鳥だけ」。このコミュで樋口円香は言いますが、プロデューサーがその歌いたい時だったのに対して、彼女の途切れ途切れの鼻歌は果たして歌いたいから歌ったものなのでしょうか?彼女にとって歌自体はどうでもよく、プロデューサーの模倣がしたいだけだったのかもしれません。料理という行動よりも歌という言葉を模倣する。彼女が沈黙と同じぐらいに言葉を大切にする、ということがわかります。

「信」、しんじる。

言葉と信、それはプロデューサーの反応←→沈黙と偽、それは樋口円香の反応

偶然電車で樋口円香の元クラスメートの噂話を聞いてしまうというコミュ。

まずこの元クラスメートが本当に元クラスメートなのかわからない上に、その噂話がどこまで本当かわかりません。それを真だと前提した上で、プロデューサーと樋口円香が通話アプリでやり取りします。

プロデューサーの反応はその立場の上でいたって普通の反応で、対応もスマートです。車両を変えようと提案する、樋口円香が噂話を気に”していない”ではなく気に”ならない”かを探る、問題ないと思ったら干渉をやめる。それは全て樋口円香というアイドルを心配した、真なる行動で、彼女に対する信を示す行動です。その心配(つまり干渉)に対して樋口円香は自分の代弁者になるな、何も知らない、これからも知ることはない”と心配に対する沈黙をもって対応します。選択肢次第では、元クラスメート(仮)が電車を降りて行った後に、彼女が一言だけ噂話に訂正を加えます。プロデューサーは寝る(干渉を終える)、と言ったにも関わらず。それは、噂話の中の、元クラスメートではなく、自分の発言についての訂正でした。彼女は自分が言った言葉を大切にするが故に、どうしてもそこだけは訂正したかった。偶然車両が同じだけだった、元クラスメート(仮)の噂話”ごとき”で、寝てることになっている相手に、思わず訂正したその言葉は、とても空虚で、偽りに思えました。しかし、それに対してプロデューサーは「信じる」と断言するのです。寝てたはずなのに。思わず出た言葉なのに、この言葉には真と信が満ちていて、その対比が浮き彫りとなっています。

「噤」。つぐむ。

沈黙と真、それは映画の感想←→言葉と偽、それも映画の感想

関係者との付き合いで映画の試写に招待されたプロデューサーと樋口円香のコミュ。

3つ目のコミュにて「転」が訪れ、このコミュは言葉が偽りで、沈黙こそが真であり信である構成になっています。

このコミュのポイントは、関係者と前で樋口円香が語った映画の感想は、果たして彼女の率直な感想なのか?ということです。彼女は「言葉では言い表せないぐらい素晴らしかった」と感想の初めに言いますが、それだけは彼女の率直な感想なのでしょう。プロデューサーの前で「あの映画は感想を言葉にしなくていい時に見たかった」と言います。それでも招待した関係者の前なので、言葉を大切にする彼女は、まず率直な感想を言った。そして、それから具体的な映画の内容について言及した。それは言いたくなかったもの、本来なら樋口円香から生まれなかったもの、偽、です。樋口円香にとって映画自体はとても面白かったのでしょう。しかし、言葉の大切さと同時に沈黙すること、外に発しないことの大切さを知っている彼女の在り方が、真なる言葉から偽なる言葉に繋がる映画の感想が生まれたのです。「大切なものだからこそ、口にはしない」。それでもプロデューサーと付き合いを優先して、その大切なものを覆した。彼女なりの誠意、信がそこにあったのです。偽なる言葉には信なる思いがある。最初の「囀」コミュと同じ構造なのです。

「偽」。いつわり。

沈黙と真、それはアドバイス←→言葉と偽、それは励まし

同じオーディションに出るアイドルの子を樋口円香が励ましているのをプロデューサーが見るというコミュ。

共通コミュ「二酸化炭素濃度の話」で、オーディションの控室で感情的になるアイドルを冷ややかに見ていた樋口円香。そこにある感情自体は、何も結果に影響しない。ただ、控室の二酸化炭素の濃度が上がるだけ。息苦しい。そんな彼女が、アイドルにアドバイスをします、「願いは叶う」と。その言葉は彼女の真ではなく偽ですが、アドバイスという行為自体は相手のことを考えて適切な言葉を送ることに徹しているので、真(信)なる行為なのです。「願いは叶わない、適当に生きる方が楽」。それが彼女の本音。そう伝え、突き放すことも可能だった。とはいえ、励ます相手も自分と同じアイドル。そんな”アドバイス”ではなく、オーディションに立ち向かうための励ましが必要なのはわかってるから、それが偽でも励ましになる言葉を選んだ。これは樋口円香なりの”アイドルという同族意識”、共通コミュ「心臓を握る」で見せた恐怖を知った彼女だからこそ、だと思います。「アイドルというだけで、こんな寒空で薄着をさせられている。周りは身を守る服ばかりなのに」と樋口円香は言う。そう、結局矢面に立つのは最後はアイドル。プロデューサーといえど、結局は後ろで見守るしかない。

”では、プロデューサーの励ましは、その土台が本音と信頼とに基づいていたとしても、それは真なのか?矢面に一緒に立つユニットの仲間ではないのだから、窮極的には偽に陥るのではないか?”ノクチルという仲良しユニットの所属する、樋口円香が言うと、シャニPというアバターを貫通して、プレイヤーに冷たいリアリティを突き付けてきます。

選択肢次第で登場する「たぶん」というワードも、樋口円香が言葉に誠実であるという事実を抽象化するために用いられるのではなく、結局、「たぶん」しか言えない、矢面に立たないプロデューサーに対する樋口円香が持つ冷たさを表したものなかもしれません。そして、決して彼女の真意には届かず、「たぶん」を考え続けるプレイヤーの背中をなぞるような冷たさでもあります。

 

「銀」。それだけでは、ぎん。鉱物、色の一種。そう、それだけでは。

沈黙、偽----------言葉----真実---→毒。

この「ギンコ・ビローバ」最後のコミュ。

SSRの名前にもなっているイチョウがやっと登場します。銀杏。なのにコミュの名前は銀の一字。これ以外のコミュに合わせて一字にしたのか?いいえ、違います。このコミュの名前を「銀」にするために、これ以前のコミュは一字となったのです。そしてこれまでのコミュ全てが、樋口円香の最後の独白を猛毒にするためも布石だったのです。

まるでバイナリー兵器(別々の無毒な物質が合成された途端に猛毒に変化する化学兵器)のように、たった数行の独白と、これまでのコミュが混ざった瞬間にシャニP”ではなく”、我々プレイヤーに猛毒が注入されるのです。

 

樋口円香のために頑張りを積み重ねるプロデューサー

                      言葉を大切にする彼女

沈黙さえ言葉なき言葉にする彼女

                    本当に大切なことは口にしない彼女

アイドルとプロデューサー、一つのように見えて違う立場にいる二人

 

『あなたは』『愚直で』『スーツも』『折り目正しく』『美しい』『ああ』『ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに』

 

このコミュはWINGで優勝したら見ることができるコミュです。そう、「感謝している」「お疲れ様でした、”プロデューサー”」のWING優勝コミュの後にこれを見せられるのです。大きな目標を達成させてくれた、美しいと感じる存在に、他人のような”危機感”を抱き、警戒し、それが破綻することさえ望む、この少女は一体何なのでしょうか。

樋口円香の独白の前に、シャニPが言います。

「身の丈に合わないところまで精一杯『プロデューサー』でありたいって務めているだけ」

「立派な肩書をもらっても……形だけだから、結局何をするでしか語れないんだ」

「だから俺は頑張るしかないんだよ」

アイドルマスターというコンテンツは、ファンのことをプロデューサーを呼び、そのロールプレイを大なり小なり誰もがしていると思っています。このシャニPの言葉は、ゲーム内で立ち回るシャニP自身のことだけではなく、それらをメタ的に見つめているプレイヤー、”プロデューサー”という存在をも示しているようで。我々、”プロデューサー”は他人に対してそれであることを示す時は、アイドルの管理を実際するわけではなく、「このアイドルの担当Pで在りたい」「このアイドルに対して何かをしている」ということでしか示せません。実際のプロデューサーは現実に運営側にいるのですから。だから頑張るしかない。熱意を示すしかない。それは美しいと思います。好きなことに打ち込んでいる姿を互いに称賛することが、アイドルマスターのコミュニティを支えている一つの柱だと思っています。

しかしその姿を見て、言葉を大切にする樋口円香が出した言葉は上記にある通り。これが何の感情なのかは、正なのか負なのか、愛なのか憎しみなのか、羨望なのか侮蔑なのか。それは各人の受け取り方次第でしょう。個人的には、”質量の大きい感情”と名付けましたが。問題はこれはゲーム内ではシャニPに発せられた言葉ですが、シャニPには聞こえていないと思われることです。この独白を知るのは、樋口円香と”貴方”だけ。

沈黙は金、雄弁は

銀は毒に反応するということで昔は食器に利用された鉱物

銀の弾丸は致命的な一撃を示す

銀杏(イチョウ花言葉には鎮魂

銀杏(ぎんなん)には毒が含まれている

漏れ出てしまった樋口円香の独白は、シャニPというアイドルマスターシリーズでも自己投影が薄いアバターを貫通して、独白を知る特権を逆流し、プレイヤーである”プロデューサー”に襲い掛かる。

 

私は、”貴方”は、知ってしまったのだ。

 

ちなみにこのギンコ・ビローバの絵、樋口円香はシャニPとは背中合わせの構図になり、まるでこちらを見ているかのような絵となっています。たぶんね。

 

さて、ここまで読んでいただいた方、長文にお付き合いいただきありがとうございました。デレやミリに比べて、プレイヤーからの独立性が高いシャニPですが、このSSRで樋口円香をシャニPに委ねるしかなくなったかな、と思いました。デレの夢見りあむはまだ笑って済ませられるブレイカーでしたが、この樋口円香のコミュはさすがに笑えませんでした。根がね、深いんですよ…。

 

2021.2.18 少し修正と追記。